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銀嶺の人(下) (新田次郎 著) 4冊目 17/700

 テラスに両手をかけて胸の辺りまで身体をずり上げたとき、左右から別々に手が出て、彼女は救い上げられるように引張りあげられた。そこには佐久間と根本がいた。テラスであるべきそこにはテラスはなく、そこはがらんとした空間であり、霧の中に頂の輪郭が見えた。
 「頂上だわ、ここは頂上だわね」
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     (第九章 アイガー北壁直登)
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 その瞬間、水晶のテラスとその周辺の岩壁にそう生している水晶群は電光を吸収し、屈折し、そして反射して、いっせいに輝いた。美佐子は、この世にあるとも思えないような美しい輝きの中に相擁している自分たち二人の姿をはっきりと見た。 (第十二章 ドリュー西壁)
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 「さようなら、淑子さん」という声が雪の中から聞えた。彼女は小橋にすがりついて泣いた。ほんとうに信頼してザイルが組める女性は美佐子以外にはいなかった。 (グランドジョラス北壁)

by t-kashmir | 2013-05-04 21:30 | reading  

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