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敦煌 (井上 靖 著) 9冊目

敦煌 (井上 靖 著) 9冊目_b0146794_1464910.jpg 曹賢順は無表情のまま一言も発せず弟延恵の報告を聞いていたが、聞き終わると穏やかに言った。「いつかは西夏の侵略を受けなければならぬと思っていた。ただそれが早く来ただけだ。張議潮以来の沙州節度使の名誉にかけても戦わねばならぬだろう。わたしの代で曹氏が滅びることになるが、これも致し方あるまい。往時、この国は吐蕃に征服され、長い間漢人は平時吐蕃の服を着、祭日の時だけ漢服を着て天を仰いで慟哭したと伝えられているが、またそれと同じことがこの国の者を見舞うだろう。併し、一つの民族が永久にこの土地を征服していることはできない。吐蕃が去ったように、西夏もまたいつかは去るだろう。その時、その後には我々の子孫が雑草のような残り方で残っているだろう。それだけは疑うことができないことだ。なぜなら、ここには漢人の霊が、他のいかなる民族の霊より多く眠っているからだ。ここは漢土なのだ」

by t-kashmir | 2012-06-17 12:00 | reading  

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